会議室ではクロサキが新しい分析結果を整理していた。
クロサキ「“飛び込み来場 × 継続提案”が有意だったこと、もう一度ちゃんと整理し直しました」
クロタネ「ん?まだ何か見えたか?」
クロサキ「はい……最初は“中小企業”に効いてるんだと思ってたんです。でも、データを深掘りすると、そう単純じゃなかった」
ルーシー「どんな傾向が見えたんですか?」
クロサキ「“飛び込み来場”の中でも、過去に取引履歴がなく、新しいカテゴリを積極的に探していた企業の限界利益率が、特に高かったんです」
クログチ「なるほど……要するに、“中小”がポイントじゃなくて、“ギラギラした姿勢”があったかどうか、ってことね」
クロサキ「はい。彼らは“小さいから利益が高い”んじゃなく、“新しい価値を見つけようとしてた”から、私たちの提案能力とか、製造対応力をちゃんと評価してくれたんです」
ルーシー「つまり、“大手か中小か”じゃなく、“共創できる相手かどうか”で判断することが、これからの戦略になる……」
クロタネ(ぽんと手を打つ)「なるほどな。“規模”じゃねぇ。“目”を見てたかどうか、だ」
(ルーシーがホワイトボードに新しいKPI案を並べていく)
ルーシー「まずは、今回の分析で“効いていた要素”をもとに、行動KPIの候補を出してみましょう」
(ホワイトボードに項目が次々と書かれる)
【ターゲット認識】
・展示会来場顧客の新カテゴリ登録率(=新しい分野に興味を持っているか)
・来場者の事前招待/飛び込みの種別
・顧客の企業規模(参考)
【初期アプローチ】
・初回提案スピード(日数)
・決裁者接触率
・初回提案品目数
【継続行動】
・継続提案回数(一定期間内)
・継続接触間隔(日数)
・提案内容の更新率(毎回内容を変えているか)
【納品/成約パターン】
・成約時の納品品目数(多品種少量 vs 単品大量)
・単価帯別 成約件数
・利益率付きの受注率(限界利益ベース)
クロタネ「なるほど!これらを日々追っていけばいいんだな」
クロサキ「いえ、これはまだ候補です。“効いていた可能性がある要素”を洗い出した段階ですね」
クログチ「……ちょっと待って。これ全部KPIにするつもり?ムリムリ、現場パンクするわよ。あんたたちの脳みそのキャパで、こんだけの指標を毎日追えるわけないでしょ。 “測ること”が目的になった瞬間、KPIは害にしかならないのよ」
クロサキ「……たしかに。これは“仮の地図”ってことですね。“行動の全体像”としては大事だけど、“全員で持てるコンパス”はこの中のいくつか」
ルーシー「その通り。KPIは“共通言語”です。誰でも見られて、理解できて、動けることが大事です」
ホワイトボードを囲んだまま、沈黙がしばらく続く。
そして、クロタネがポツリと呟いた。
クロタネ「……今までさ、『大手を狙え』『数を回せ』って、俺がずっと言ってきたんだよな。だけど——」
「実際の勝ち筋は、“未来を一緒に作ろうとしてる顧客”に、じっくり付き合うことだったんだな……」
クログチ「そう。相手の“規模”じゃなく、“姿勢”。見なきゃいけないのはそこ」
ルーシー「今回、それが数字として見えたのは大きい。営業行動がどこに効いていたか、“仮説”じゃなく“証拠”で語れるようになった」
クロタネ「……でもよ」
クロタネは腕を組み直しながら言った。
クロタネ「これ、今のまま社長に見せたら……“で、結局どうしたらいいの?”って言われそうだな」
クロサキ「……たしかに。このホワイトボード、見た目ぐちゃぐちゃですし。“どの数字が何につながってるのか”が、整理されてないです」
クログチ「分析で“見えたこと”と、“伝わる形”は別物よ。あの人、論理より構造で考えるタイプだから、図にして説明しないと無理」
ルーシー「そうですね。いま私たちの手元には“点”が揃いました。あとは、それを“線”と“面”に整理すること。“この行動が、この利益につながっている”という構造を、見える形で示す。」
クロタネ「よし……このままじゃ伝わらねえってことは、はっきりした。次は、“勝ち筋の地図”をつくろう。“戦略の全体像”を見せる準備だ」
「社長説明用にツリーを作る」——発見した勝ち筋をどう伝える?「売上よりも利益」「規模よりも姿勢」を見せるために、クロタネたちは戦略ツリーを描き始める!
今回のKPI再設計は、「相手の規模」ではなく、「行動・姿勢・反応の質」に着目する視点から生まれました。展示会の“飛び込み来場”は、単なる来場形態ではなく、“新しい何かを探しに来た意欲ある顧客”の象徴だったのです。
営業戦略の核心は、「どの顧客に、どんな価値をどう届けるか」。KPIとは、そうした“価値の流れ”を可視化する道具です。現場に納得され、行動を促すKPIこそが、利益体質への第一歩になります。
権守一城
中小企業診断士:経済産業大臣登録番号427888
中小企業の現場出身の中小企業診断士。
事業・経営・ITの3本足を持つヤタガラス人材チームを中小企業で創る支援を大切にしています。