カバ物産の営業マネージャー、クロタネは今日も声を張り上げていた。社内でも有名な“売上至上主義カラス”。
数字がすべて。売上こそ正義。そう信じて、飛び続けてきた。
若手のカラス社員たちは疲弊していたが、タネは「甘えだ」と思っていた。結果が出なければ、それはただの言い訳。
「営業は泥をかぶってナンボだろ」
だが、ある月の締め会議で、社長のカバゾウが重い口を開いた。
カバゾウ「売上は伸びてる。だが……利益が出ていない」
その一言が、タネの中に小さな違和感を残した。
──数日後。
社長に呼ばれて紹介されたのは、一羽の白いカラスだった。
「ルーシー先生だ。経営のことに詳しい中小企業診断士の先生だ」と、カバゾウが紹介する。
白いカラス──タネは初めて見た。
見た目だけじゃない。佇まいも、他のカラスとはまるで違った。
「クロタネさん。営業部の責任者ですよね。ひとつ質問してもいいですか?」
「はい?どうぞ」
「あなたのチーム、粗利って見てますか?」
「ソリ……?えっと、カブの一種?」
ルーシーは一拍置いてから、目を細めて言った。
「……なるほど。じゃあ、そこからですね」
その日の午後、ルーシーはカラスたちの古い会議室にタネを連れていった。
「あなたの部下ごとの売上と粗利を並べたものです。」
スクリーンに映されたのは、営業別の売上と、そこから原価を差し引かれた“粗利”。
「この“売上 ー 原価”が、粗利です」
「つまり、売れた分から“直接かかったコスト”を引いた実質的な儲けですね。何を原価にするかは会社次第ですが、当社では仕入原価+配送費+製造部労務費としています。」
タネは黙って画面を見つめた。
自分が誇っていたトップ営業、イカルの粗利が異常に低い。
「……あいつ、こんなに薄利だったのか?」
「値引きが多いんです。数字の華やかさに隠れてますが、利益は出てません」
クロタネの中で、何かが音を立てて崩れた。
売上がすべてだと信じてきた。でもそれは、表面の数字だけを追いかける虚しい飛行だったのかもしれない。
「……じゃあ、俺たちは、何を見て営業すればいいんです?」
ルーシーはくちばしの端をほんの少し持ち上げて答えた。
「それ、次回いっしょに考えてみましょう」
「粗利を見始めて変わったこと」──営業の真の評価軸が動き出す。
粗利が重要なのは事実ですが、「売上を軽視していい」という話ではありません。
ケースによっては、売上重視が正解なこともありますし、粗利だけ見ていても失敗することはあります(新規参入期や市場浸透戦略フェーズなど)。
ただ、営業現場で粗利という概念が“抜け落ちている”ケースが非常に多いのは事実です。
この物語では、あえて「粗利」という視点を導入することで、分析の第一歩としての“気づき”を描いています。
権守一城
中小企業診断士:経済産業大臣登録番号427888
中小企業の現場出身の中小企業診断士。
事業・経営・ITの3本足を持つヤタガラス人材チームを中小企業で創る支援を大切にしています。