(ホワイトボードの前。クロサキが端末を操作しながら)
クロサキ「これが戦略マップから外れてた案件一覧。つまり、主要なモデルのKPIからズレた注文履歴です」
(クロサキがExcelの画面を映す)
クロサキ「実はこれ、重回帰分析を使って、各案件の“予測粗利”を出してみたんです。提案カテゴリ数、接触回数、訪問頻度とかを説明変数にして。で、実際の粗利とのズレ、つまり“残差”を出して、散布図にしたのがこれ」
(プロジェクターに散布図が表示される。中心から大きく外れた点がいくつか目立つ)
クログチ「残差が大きいのが、いわゆる“外れ値”ね。実際より高すぎたり、低すぎたりするやつ」
クロサキ「そうです。特に“予測よりかなり高い粗利”が出た案件は、モデルで説明できない“当たり”かもしれない。これ、拾ってみたら……」
(一覧がプロジェクターに表示される。「ドライフルーツのみ大量注文」「イベント用途の単発発注」など)
クログチ「……粗利率もそんなに悪くないわね。むしろ、数件はかなり高い」
クロタネ「なんだこれ。ぜんぜん狙ってなかったはずの案件が、結果的に“当たり”になってるじゃないか」
ルーシー「モデルが示してくれるのは、あくまで“今までのパターン”。でも、そこから外れたところにも、大事なサインが隠れていることってあるのよ」
(ホワイトボードに事例をピックアップしながら)
クロタネ「この『アウトドアフェス用のドライミックスセット』、誰が提案した?」
チュウタ「あ、それ僕です。フェス主催者が“他と違う商品がほしい”って言ってて、在庫の中で組んでみたら刺さったみたいで」
クログチ「定価より高い単価で通ってるじゃない。値引きなしで売れた理由、何だったと思う?」
チュウタ「うーん……他では手に入らない組合せ?あと、納期もギリギリだったから、即対応できたのが大きいかも」
ルーシー「その通り。“すぐ手に入って、他にはない”。その2つが、あのお客さんにとっての“買う理由”だったのよ」
クロサキ「データ上は“例外”でも、行動と文脈を追えば、パターンが見えてくるな……」
クロタネ「つまり、俺たちが作ったモデルにハマらない顧客にも、“価値の種”が眠ってるってことか」
ルーシー「うん。モデルは“戦略の中心”を示すもの。でも、すべてを説明するわけじゃない。外れたところにだって、新しい可能性があるの」
クログチ「実際、あのフェス向けの提案って、ほかのBtoBイベント案件にも応用できるかも……」
クロサキ「単品大量でも、相手の事情が特異なら、付加価値で粗利が取れる。条件が揃えば、再現できるはず」
クロタネ「よし。モデル外の案件も、条件整理して“勝ち筋候補”としてまとめよう。次の打ち手につなげるために!」
「モデルから外れる顧客」――戦略マップに乗らなかった先に、新たな“勝ち筋”がある!?
戦略モデルは、現場の行動と思考を「構造化」する強力なツールですが、それに“回収されない”事例こそ、次の発展のヒントとなることがあります。
モデル外の事例に注目するときのポイントは、
・それが単なる偶然か、再現可能な兆しかを見極める視点
・顧客の「買った理由」に立ち戻る姿勢
・条件整理による“拡張パターン”の発見
“外れ値”を無視するのではなく、意味あるサンプルとして分析すること。これがモデルを進化させる視点です。
権守一城
中小企業診断士:経済産業大臣登録番号427888
中小企業の現場出身の中小企業診断士。
事業・経営・ITの3本足を持つヤタガラス人材チームを中小企業で創る支援を大切にしています。