ルーシー:社長、最近あの商品、売れ行き落ちてきてませんか?
社長:お、なんで知ってんだ。まさにその通りで……あれ、前は注文止まらなかったのにな。
ルーシー:それ、製品ライフサイクル──PLCでいう「成熟期」の可能性がありますね。
社長:なんだいそれ、製品にも人生みたいなステージがあるって話か?
ルーシー:その通りです。導入、成長、成熟、衰退という4段階に分けて、製品の寿命と市場での動きを見える化したフレームワークです。昔からあるけど、今も有効です。
社長:ふーん。でもウチみたいな会社に関係あるんかね。
ルーシー:むしろ、大企業より関係あります。資源が限られる中小企業こそ、撤退や次の一手の判断を誤ると、すぐ資金繰りが詰まりますから。
社長:……で、ウチはどこにいる?
ルーシー:今のお話からすると「成熟期の入り口」ですね。売上がピークを打ち、競合が増え、値下げ要求が厳しくなってくるタイミングです。
社長:うん、当たってる。最近ほんと、値段の話ばっかりだもんな。
ルーシー:ここ、簡単に4つのステージだけ説明しておきましょうか。誤解のないよう、利益と投資の関係も含めて整理してみますね。
① 導入期
売上はまだ小さく、広告費や開発コストが先行して赤字が続きやすい。顧客はイノベーター(≒新しいものに敏感な先行ユーザー)層。不確実性が高く、資金繰りが勝負。
② 成長期
売上が急拡大するが、実は裏で増産体制・人員・開発などの投資も増える。表面的には黒字でも、キャッシュアウト(≒現金の流出)が大きくなる時期でもある。シェア獲得競争が本格化。
③ 成熟期
市場成長が頭打ちになる一方で、利益は出しやすい時期。ただし、価格競争が激しくなり、顧客の乗り換えも起こる。既存顧客の維持と効率的な運営がカギ。
④ 衰退期
技術革新や嗜好変化で需要が減少。儲からないから撤退も検討対象。ニッチ特化か、静かに幕引きかの見極めが必要。
「社長、グラフで言えばこのへんが山の頂上です(成長→成熟の間)」「ここで先に下り坂対策しないとブレーキ間に合わなくなりますよ」
社長:なるほどなぁ。たしかに最近は売上は横ばいだけど、在庫の山が気になっててさ……。
ルーシー:まさにその「微妙な違和感」に気づけるのが中小企業の強みなんですよ。そして今考えるべきは、“儲かってるうちに、次の柱を準備できるか”どうかなんです。
社長:うち、次の柱って……まだ考えてないな。今の製品があるから何とかなってるけど。
ルーシー:それが、まさに“危険な安心”なんです。成熟期はまだ利益が出る時期ですけど、だからこそ次世代製品のための資金と時間を確保するチャンスでもあります。下の表を見てください。あくまでイメージですが、導入期はどうしても赤字が続きます。今の製品の利益があるうちに始めるのが経営全体で考えると安全です。
社長:うーん、じゃあ今のうちに動かなきゃか。
ルーシー:はい。次の成長を生むには、“成熟期のキャッシュを、未来への投資に回せるかどうか”が勝負です。
このあとのお話で、中小企業ならではのPLC活用法──“資金がないからこそできる戦い方”をお伝えしますね。
社長:さてルーシー、続きを頼むよ。「成熟期がチャンス」って話、あれ、もっと聞きたい。
ルーシー:はい。成熟期って、実は“最後の稼ぎ時”なんです。
売上は頭打ちでも、コスト管理が効いて利益は出やすい。だからこそ、この利益を次の成長に再投資できるかどうかが、企業の分かれ道です。
社長:なるほどな。確かに、今までは“利益出てるしヨシ”って思ってたけど……次の芽は育ててないかも。
ルーシー:よくある話です。ただ、それをやらずに利益を“貯めるだけ”だと、衰退が始まったときに「打つ手なし」になります。
社長:怖いな…。でも中小企業って、そんな余裕あるかね?
ルーシー:だからこそ、“全部やる”んじゃなくて、集中と選択です。
たとえば──成熟期に取り得る戦略は、次の3つに大別されます。
製品の改良・再定義
→ 見た目、性能、パッケージ、使い方、ネーミングを少し変えて「新しい価値」を作る。
例えば、「業務用」だった商品を「個人向け」に転換するなど。
市場の拡張・移動
→ 地域を変える。業界を変える。既存の技術を別の分野に応用する。
たとえば、工場用パーツを医療・介護の分野に持ち込んで成功した事例もあります。
次の製品・事業の準備
→ 今の商品は“キャッシュカウ”。その利益を「次の商品」に投資する。
設備更新だけでなく、リサーチ・試作・販路開拓に充てる。
社長:うちなら…今の製品を少し変えて違う業界に売れないか、ってのが現実的かな。
ルーシー:それ、いい発想です。成熟期に一番避けたいのは「守りすぎて、変化を逃すこと」。市場拡張を考えるなら、まずは既存顧客への用途ヒアリングから。展示会での異業種ブース訪問もヒントになります。
あと社長、ちょっと思い出してください。さっきのPLCグラフ──そこに新しい製品もプロットしてみます。
ルーシー:あの“頂上”を過ぎたら、あとは下り坂です。でも──下りながら次の山を登る準備をする企業と、気づかずに転げ落ちる企業。これ、どっちが多いと思います?
社長:……そりゃあ後者だろうな。オレもその一人かも。
ルーシー:いえ、今こうして話してる時点で、もう“登山計画”に入ってますよ。
成熟期の利益をどう使うか、ここに企業の寿命がかかってます。
社長:ところでさ、衰退期って本当に来るの?なんとなくで終わらせちゃダメなのかね。
ルーシー:はい、来ます。遅かれ早かれ。
特に技術革新や消費者の価値観変化は、予想よりずっと早いスピードで来ます。
それに…経営者が「まだいける」と思ってる時期って、実は市場ではすでに“下り坂”に入ってることが多いんです。
社長:……刺さるわ、それ。
ルーシー:だから、成熟期の終わりが見え始めたら、「次に移る準備」を始める。
撤退か、継続か、転換か──その判断を“黒字のうち”に行う。
社長:黒字のうち、か。やっぱり“逃げるなら今”ってのは本当なんだな。
ルーシー:逃げるだけじゃなく、跳ぶための準備ですね。
中小企業って、大企業みたいに10年計画なんて引けません。でも──“今期と来期”の間に「新しい芽」があるかないか、それが経営の質を決めます。
社長:じゃあ、今のうちに来期の芽、探してみるか。
ルーシー:はい。その気になっていただけたなら、これが“最高の成熟期の使い方”です。