SWOT分析は“最後の一手”──若手企画がつまずく「最初にやる罠」を解く
SWOT分析を最初に使っても、曖昧で浅い整理に終わってしまう──その原因は「分析の順番」にあります。本記事では製造業の若手企画職が抱えがちな課題に対し、PEST・5Forces・3Cなどを用いた情報整理の流れを踏まえたうえで、SWOTを“戦略のまとめ”として活用する道筋を、中小企業診断士が明快に示します。
SWOT分析を最初に使っても、曖昧で浅い整理に終わってしまう──その原因は「分析の順番」にあります。本記事では製造業の若手企画職が抱えがちな課題に対し、PEST・5Forces・3Cなどを用いた情報整理の流れを踏まえたうえで、SWOTを“戦略のまとめ”として活用する道筋を、中小企業診断士が明快に示します。
若手社員(以下、若手):「……なんか、全然埋まらないんですよ。SWOT分析って“考えやすいツール”って聞いたんですけど。」
ルーシー:「ん?今はどのフェーズですか?まさか、最初からSWOTに手を出していませんよね?」
若手:「あ、はい……“強み”は“技術力”、でも“機会”とか“脅威”って、主観で書いてる感じになっちゃって。」
ルーシー:「それ、分析の順番が逆ですよ。SWOTは“情報整理の最終便”です。いきなり使うと、“ふわっとした感想文”になります。」
ルーシー:「そもそもSWOTは、1960年代にスタンフォード研究所で開発された“戦略要素の編集フレーム”なんです。自社を取り巻く内部・外部情報を他の分析で洗い出した後に、それを分類・統合する道具です。」
若手:「つまり、SWOTって“分析”じゃなくて“編集”なんですね。」
ルーシー:「Exactly。たとえばPEST分析──政治・経済・社会・技術の変化をマクロ視点で見るフレーム──で“カーボンニュートラルの加速”が確認できれば、それは“脅威”にも“機会”にもなり得る。」
若手:「うちみたいな部品メーカーなら、どう整理すればいいんですか?」
ルーシー:「最新データで見てみましょう。日本政策金融公庫の調査(2023年1月)によれば、中小企業全体で温室効果ガス削減に取り組んでいる割合は44.9%。中でも製造業は49.5%と、他業種より高い実施率なんです。」
若手:「あれ、思ったより多いですね……。」
ルーシー:「ええ。つまり製造業では、脱炭素は“課題”というよりも“注目テーマ”に近い。もし自社が温室効果ガス削減に繋がる製品や技術を持っていれば、それはSWOT上の“Opportunity”です。」
若手:「それ、実は最近OEMの要請でそういう製品ライン開発してて…!」
ルーシー:「もしも競合は出来なくて、当社は実績があるという状況ならば“強み × 機会”が重なる“戦略ポイント”ですね。数字と事実から“見つけた機会”は、戦略として投資検討に値します。」
ルーシー:「他にも5Forces(業界の競争要因を5つに分けて構造分析)を使えば、たとえば“新規参入障壁が高く安定市場だが、代替技術が成長中”といった競争構造が見えてくる。」
若手:「うちはAI加工ラインの競合が出てきてて……去年X社が5億円投資してるってニュースも。」
ルーシー:「その事実は“脅威”になります。3C分析──Customer(顧客)・Competitor(競合)・Company(自社)──の観点で見れば、顧客は安定供給を重視し、競合はAI化で標準化を進めている中、自社は熟練ノウハウに強みがある一方で、属人化により生産の安定性が課題です。この構図なら、“強みと弱み”が相対的に明確になります。」
若手:「あー……前に“ブランド力”って入れたら、“それどこで証明されたの?”って社長に怒られたのを思い出しました……」
ルーシー:「あるあるです。“社内の雰囲気”や“なんとなくの印象”をそのまま入れると、SWOTは信用されなくなる。
たとえば“引き合い数が前年比120%”とか、“見積もりリードタイムが業界平均より2日短い”といった客観情報を加えて補完しましょう。」
若手:「でも…SWOTって経営会議用って感じで、現場レベルだとあまり活かせない印象が……」
ルーシー:「それも誤解のひとつ。SWOTは“課題を共有する共通言語”なんです。たとえば営業部が『チャンス』と見ている新規受注案件に対し、製造部は“ライン逼迫という弱み”を把握している──そのギャップを調整する材料にもなるんですよ。何よりSWOT分析は内容さえ良ければ1枚での網羅感があり、現場と経営の両者にとって覚えやすい共通アイテムになります。これ一枚だけ持って帰って!といえる貴重なフレームワークです。」
ルーシー:「繰り返しますが、SWOTは“最後に使う”。
他のフレームで見えた要素を、構造的にまとめて他者と共有するための仕上げです。」
若手:「今まで“とりあえずやるもの”だと思ってました……。次は、根拠ベースで設計します。」
ルーシー:「その姿勢が、あなたの企画を一段上に引き上げますよ。」
日本政策金融公庫(2023年1月)「中小企業の脱炭素への取り組みに関する調査」
経済産業省「中堅・中小企業のGXに関する調査」
中小企業庁『ローカルベンチマーク活用ガイド』