クロサキ「“行動を分解”って聞いたから来たんですけど、何をやるんですか?プログラムの分解なら任せてほしいですね」
クロタネ「いや、コードの話じゃないよ。営業の“動き”を数字につなげるって話だ」
ルーシー「ええ。今日は“バリュードライバーツリー”という考え方を使って、利益にどうつながるのかを行動レベルで見える化していきます」
クログチは無言でうなずきながら、メモを取り始める。
(ルーシーはホワイトボードに「経常利益」と書き、その下に枝を伸ばし始める)
ルーシー「たとえば、まずは『経常利益』を3つに分けます。『売上高』『限界利益率』『固定費』。この分け方をスタートにします。」
クロタネ「前回やったCVP分析ってやつの続きだな」
ルーシー「そうです。売上高が上がれば利益も増えますし、限界利益率が上がれば売上増加時の利益への影響が増える。固定費は一時的には変えにくいので、どこに注力すべきかを見定める必要があります」
クロサキ「売上高って、普通は『単価 × 数量』で分けるやつですよね?」
ルーシー「はい、確かにその分け方もありますが、カバ物産さんのように“定番商品を継続して卸す”Run Rate型のビジネスでは、売上高は『顧客数 × 購買頻度 × 平均購買単価』に分けたほうが実情に合っています」
クロサキ「……なるほど、確かにSaaSなんかでもそういう見方しますね」
ルーシー「そこからさらに細かくしていくと、『顧客数』は“新規獲得数”と“既存顧客の維持率”などにひもづいていきます。更に新規獲得数の為には新規取引提案訪問数と成約率で分解できます。」
クロサキ「分解ツリー、つまりKPIツリー的なやつですね。上から順に指標を枝分かれで細かくしていく」
クロタネ「……なるほど。営業行動がちゃんと枝の先にあるわけだ」
ルーシー「そうです。こうやって、最終的な利益まで行動がどうつながっているのかを見える化するのが、このツリーの目的です」
クロタネ「ってことは……どこを改善すれば売上に効くかが見えてくるってことか」
ルーシー「はい。たとえば、訪問件数が多くても、提案の質が低ければ購買頻度は上がりません。どこにボトルネックがあるのか、可視化できるようになるんです」
クロタネ「ちょっと、営業メンバー集めて、今やってる行動を全部洗い出してみるよ。“ブラックボックス”を開けるときが来たな」
ルーシーは一度マーカーを置き、クロタネを見て言った。
ルーシー「……ところで、売上に関してはすでにクロタネさんの指導で一定の成果が出ていると聞いています。課題はむしろ“限界利益率”のほうではないでしょうか?」
クロタネ「ああ、確かに。売上は伸びてるけど、利益はむしろ落ちていたんだよな」
ルーシー「だからこそ、次は“限界利益率”に関わる行動を見える化していく必要があるんです。そのためにもまずは、なぜ限界利益率が下がっているのか——原因を整理しましょう」
ルーシーはホワイトボードに4つの項目を書き出した。
ルーシー「限界利益率が下がる要因は、次の4つに収斂します。
1つ目、“定価と売価の差”——つまり、値引き対応の増加です。
2つ目、“仕入原価の上昇”——市況変動や仕入先との条件変更ですね。
3つ目、“ロスの増加”——製造部門での製造ミスの発生や賞味期限切れ等、販売に結びつかないコストの発生。
そして4つ目が、“セールスミックスの変化”です」
クロタネ「セールスミックス……?」
ルーシー「粗利率の高い商品が減って、低い商品の販売構成比が増えている状態です。実は今のカバ物産さん、ここが最も大きく響いていると見ています」
クロタネ「……ああ、最近は納品優先で“売りやすい商品”に偏ってる気がする。自社製品は製造納期を気にしないといけないから無茶を聞いてくれるリス食品製造からの仕入商品販売が増えている……」
ルーシー「その“売上が達成できれば良いという空気”が、限界利益率をじわじわ下げている可能性がありますね」
「勘と議論で行動を洗い出す」
現場が自ら作る“営業の地図”。クロタネとチームが初めて一つになる瞬間——
「バリュードライバーツリー」は、売上や利益といった結果指標(KGI)に対して、どの行動(ドライバー)が影響しているのかを可視化するフレームです。CVP分析で利益構造を捉えたうえで、現場レベルの行動にまで因数分解することで、数字と行動をつなぐ橋がかかります。ツリーをつくる際は「粒度をそろえる」「現場の実感とズレない表現にする」ことが成功のポイントです。
権守一城
中小企業診断士:経済産業大臣登録番号427888
中小企業の現場出身の中小企業診断士。
事業・経営・ITの3本足を持つヤタガラス人材チームを中小企業で創る支援を大切にしています。