クロタネは、紙カップのコーヒーを片手に、静かにため息をついた。となりに座る白いカラス、ルーシーもそれを見守っている。
クロタネ「正直なところ、まだピンときてないんですよ。粗利って言われても、何が良くて何が悪いのか……」
ルーシー「違和感を持てたのは、すばらしい一歩ですよ。じゃあ今日は、その“違い”がどう生まれるか、一緒に見てみましょう」
ルーシーは小さなファイルを取り出し、2枚の取引シートを見せた。
ルーシー「このふたつ、どちらも売上はほぼ同じ。でも粗利には大きな差があります。どちらが高粗利だと思いますか?」
クロタネはシートを覗き込む。
クロタネ「うーん……どっちもオレの担当案件だな。Aの方は、量は少なかったけど定価で売れたやつ。Bは重点取引先のライオンズマートだ。大口だったから値引きした。配送先も遠かったな……」
ルーシー「粗利が高かったのはAです。仕入原価も変わらず、値引きなし、配送費も最小限。つまり、Aは“標準の粗利から削られない案件”だったんです」
クロタネ「……Bの方は目先の売上達成を優先した結果、割引や無理な納期対応で原価が増えたということか。クレームも多くて、手間もかかったのに、数字ではこれかよ……」
ルーシー「値引き、対応の手間、配送料……。そういった“現場の判断”が、実は粗利に直結しているんです」
クロタネは何も言わず、静かにうなずいた。
クロタネ「オレ、無理な納期や難しい条件のお客さんでも、何とか調整して受注につなげるのが営業の腕だと思ってたんです。だけど、それが……会社の利益を削ってたのかもしれないな」
ルーシー「粗利は“最初の儲け”にすぎません。このあとにも、まだいくつものコストが控えています。たとえば営業部の人件費や販促費などですね」
クロタネは、少し考え込むようにくちばしを閉じた。風が木の葉を揺らし、遠くでトラックのアイドリング音が聞こえる。
ルーシー「売上から粗利を見て、次は“本当の意味で利益を生む構造”を見ていく。その入口が、コストの分解です」
クロタネ「コストの……分解?」
ルーシー「明日からは粗利から一歩踏み込んで、コストを固定費と変動費に分けます。当社のように製造機能を持つ場合、ここを読み間違えると、大きな判断ミスにつながりますよ」
クロタネは、ゆっくりと顔を上げた。
クロタネ「……なんか、今まで見てなかったところが、結構ある気がしてきました」
ルーシーはくちばしの端を、わずかに持ち上げて微笑んだ。
「CVP分析利益構造を掴む」──カバ物産、実際に使える管理会計の一歩目に踏み込む
クロタネは少しずつ売上意外の指標も見始めたる必要性を感じ始めたようです。
さて、営業現場では「粗利=儲け」という感覚が根強くありますが、粗利はあくまで利益構造の“入口”です。 本当の意味で利益を生み出すには、そこからさらに何が引かれるのか——つまり“コスト構造”を捉えることが重要です。 特に製造機能を持つ企業では、固定費と変動費の分解がカギになります。
権守一城
中小企業診断士:経済産業大臣登録番号427888
中小企業の現場出身の中小企業診断士。
事業・経営・ITの3本足を持つヤタガラス人材チームを中小企業で創る支援を大切にしています。