営業部、製造部、配送部が集まるざわつく会場。クロタネは前に立ち、深呼吸した。
クロタネ「……今日は集まってくれてありがとう。みんなに、これからのカバ物産について話したい」
(プロジェクターに戦略マップが映る)
クロタネ「これまでは、“売上を上げろ”“行動量を稼げ”って、俺もずっと言ってきた。特に大手に大量単品を提案して、とにかく数字を追ってきた」
会場に沈黙が走る。クロタネは続けた。
クロタネ「でもな、それじゃ利益が出なかった。……分析してみたら、利益を出してたのは、実は“中堅の高利益率顧客”に、“複数商材を組み合わせて”提案してたケースだったんだ」
クロサキ「この半年の受注データを全部見直しました。“別商品分野の提案数”が多い顧客のほうが“粗利率”が高い傾向にありました」
会場はまたざわついた。
クログチ「つまり、“売上が大きい=儲かる”じゃないの。利益率が高くて、新しい提案を面白いと感じてくれる“相性のいい顧客”こそ、狙うべきなのよ」
クロタネ「今後は、そういう顧客に、もっと多品目をじっくり提案していく。配送・製造とも連携して、ロングテールで利益を積み上げる体制にしたい」
イカル(営業・中堅)「……え、じゃあ俺がこの2年やってきた“大手一本特化”は、無駄だったってことかよ」
トップ営業とされてきたイカルは動揺を隠しきれなかった。誰よりもクロタネの声に応え、模範であろうとしていた。その姿勢をこの場にいる全員が知っていたからこそ、彼の言葉を重く受け止めていた。
クロタネ「……いや、違う。イカル、お前がやってきた提案のスタイル――相手に合わせて丁寧に準備して、しっかりと価値を伝える力。それこそが、これから中堅・中小の顧客にも必要なんだ」
クログチ「むしろ、あの丁寧な提案スタイルがあったから、中堅顧客への複数商材提案も成功してたの。やり方は正しかったのよ。これからは“どこに向けるか”が変わるだけ」
チュウタ(若手営業)「あの…じゃあ……中堅のお客さんにも、これからはしっかり向き合えるってことですよね?前にナッツとドライフルーツの組合せ提案、すごい喜ばれたんです」
クロタネ「そう。ああいう提案こそ、これからの主役だ。提案を“数”じゃなく“幅”で勝負していく。それが“利益体質”になるってことだ」
■ Part 3:動き始めた感情
クロサキ「この戦略マップには、そうした現場の行動がそのまま入ってます。新しいことじゃない。すでに始まってたことなんです」
イカル、資料をめくると自分の名前が出ていることに気がついた。トップセールスを示す売上棒グラフではなく、これからの模範的セールスの事例として。
イカル「……ここ、“複数カテゴリ提案の事例”って、俺が去年やったやつじゃん。あれ、役に立ってたのか……」
クログチ「自分たちの仕事がちゃんと数字になってたって、わかると違うでしょ」
カバゾウ「うんうん、ええやないか。なんや、今までのやり方を捨てるんやのうて、“使い方”を変えるんやな」
ルーシー「そう。今までの努力を否定しない形で、未来につなぐこと。それが今回の説明の設計です」
クロタネ「これから、俺たちは“勝てる相手に、価値を届ける”営業に進化する。そのための第一歩、一緒に踏み出そう」
「モデルから外れる顧客」――戦略マップに乗らなかった先に、新たな“勝ち筋”がある!?
営業変革の第一歩は、「何が変わるのか」を明確にすること。そして「なぜそれが必要なのか」を、現場の経験に根ざして語ることです。
戦略マップや分析結果を活用しつつも、現場の不安や自尊心に配慮した“語り方”が重要です。キーワードは、
・努力の肯定
・方針の意味づけ
・具体的な行動への言語化
現場が“自分ごと”として受け止めたとき、戦略はようやく動き始めます。
権守一城
中小企業診断士:経済産業大臣登録番号427888
中小企業の現場出身の中小企業診断士。
事業・経営・ITの3本足を持つヤタガラス人材チームを中小企業で創る支援を大切にしています。