登場人物:
👩💼 ルーシー(中小企業診断士)
👨💼 社長(製造業を営む中小企業経営者)
社長:
ルーシー、うちの決算、今年も黒字だったんだよ。ちょっと安心したよ。
ルーシー:
それはよかったですね!……でも、社長。1つだけ気になった点があるんです。
棚卸資産、去年よりだいぶ増えてましたよね?なにか在庫方針、変えました?
社長:
いや?特に何も。まぁ、期末近くにちょっと仕入れ多めにしたぐらいかな。
それに在庫は資産でしょ?あればあるほど会社が豊かに見えるんじゃないの?
ルーシー:
……その考え、ちょっと危険かもしれません。
実は「在庫=資産だから多くてOK」って発想が、“見えない粉飾”を生むことがあるんです。
社長:
粉飾って、あのニュースに出る大企業の不正会計でしょ?
うちはそんなことしてないし、そもそも悪いことなんて……
ルーシー:
いえ、意図がなくても「結果的に粉飾になっている」ケースが意外と多いんです。
たとえば在庫を実際より多く帳簿に載せてしまうこと。これが「棚卸資産の過大計上」です。
社長:
え、でもちょっと数え間違えただけとか……?
ルーシー:
その「ちょっと」が命取りです。
期末の棚卸資産は「売上原価」を計算するのに使います。
売上原価が減れば、利益は“水増し”されて見える。
社長:
……じゃあ、在庫を多く見積もっただけで、利益が増えたように見えるってこと?
ルーシー:
その通りです。そして怖いのは――
「誰にもバレないまま、誤った経営判断に突き進んでしまう」こと。
ルーシー:
この在庫の過大計上、主に2パターンあります。
意図的な粉飾:融資のため、評価を良く見せたい、社内のプレッシャー……などの動機から「わざと」帳簿を良く見せるケース
意図しないエラー:数え間違い、入力ミス、低価法の適用漏れ、評価単価の誤りなど
社長:
うーん……②ならウチも危ないかもしれないな。
棚卸は現場任せになってるし、正直そこまで精度よく見てない。
ルーシー:
中小企業では②のパターン、ほんとによくあります。
しかもそれが積み重なると、決算書の数字がどんどん“実態からズレていく”。
社長:
でも、別にちょっと利益が増えるだけでしょ?
それで何か困るの?
ルーシー:
実は、いろんなところに影響が出ます。
財務諸表:利益が実態より多く見えることで、税金も多く払う羽目になります
キャッシュフロー:利益が出てるのにお金がない、「黒字倒産」につながる
投資判断:本当は不採算な事業に資源を突っ込んでしまう
人事や配当:実態のない利益を前提に賞与や配当を決めてしまう
社長:
ああ……あるあるだな、それ。
税金は払ったのにキャッシュが足りなくて、翌期の仕入れ止めたことある……
ルーシー:
まさにそれです。過大計上は、単なる数字の間違いじゃなくて、“経営の舵取りミス”に直結する問題なんです。
社長:
でもさ、ウチみたいな小さい会社にそんな厳密な棚卸とか、無理じゃない?
ルーシー:
その気持ち、よくわかります。
ただ、中小企業こそ人が少なくてミスが出やすいし、経営者自身が数字をちゃんと見てるかどうかで差がつくんです。
現場と帳簿がズレてても気づかない
会計ルールや評価方法の違いを知らない
仕掛品や原材料の評価を「勘」でやってる
こういう状態だと、気づかないうちに“粉飾してた”ってこともあり得ます。
社長:
いや〜ちょっとドキッとしたな……。
とりあえず、今期の在庫、もう一度ちゃんと見てみようかな。
ルーシー:
それ、大事な一歩です!
次回は「じゃあ、どうやって過大計上に気づくの?」という観点から、発見方法や会計・税務処理をお話ししますね。
社長:
うん、頼むよルーシー。
「黒字でも潰れる会社」にならないように、今のうちに気づいておかないとな!
社長:
いやー、前回聞いてからちょっとゾッとしてさ。
棚卸表、改めて見返したんだけど……正直、よくわからん数字が多くて。
ルーシー:
その感覚、すごく大事です。
今日は「どうやって在庫の過大計上に気づくか」――いわば“ウソの利益”を見破る方法をお話ししますね。
社長:
うちはちゃんと棚卸してるよ?毎年決算の前に数えてるし。
ルーシー:
それでも、です。
在庫の過大計上は「数え方が甘い」「評価がおかしい」「帳簿との突合せ不足」みたいな要因で起こります。
たとえば:
一度売れ残ってホコリかぶった商品が、なぜか“新品価格”で帳簿に残っている
実際にはない在庫が、誰も検品せずに“あるもの”として計上されている
こういうのは、単なる数じゃなくて「中身を見ないと」わからないんです。
ルーシー:
過大計上を発見するには、以下の視点を持っておくといいです。
実地棚卸:現物と帳簿が合っているか
タグ付きで二重カウント防止、倉庫の死角に埋もれた在庫も確認!
財務分析:数字の動きに違和感がないか
たとえば「在庫回転期間」が急に伸びていたら、売れてない在庫が積み上がっている可能性大。
キャッシュフロー:利益と現金の流れが一致してるか
黒字なのに現金が増えてない?その理由、だいたい“在庫”です。
社長:
ああ……去年、営業利益は出たのに、なぜか資金繰りがきつくてさ……
いま思えば、あの在庫、売れてなかったもんな。
社長:
でも、もし過大に計上してたとしても、バレたら直せばいいんじゃないの?
ルーシー:
それが甘いんです、社長。
修正ってのは、ただ「直す」だけじゃ済まないんですよ。
会計上:原則は「修正再表示」。つまり過去の財務諸表を全部遡って直す。
税務上:損金算入は“過去の誤りをその年度で”申告し直さないとダメ。
発覚した今年の決算で一括して損金にするのはNG。
社長:
え、じゃあ……数年前の過大計上を今になって直しても、税金戻らないってこと?
ルーシー:
そうです。しかも、その年度の申告期限(通常5年)を過ぎてたら、もう更正の請求もできません。
社長:
……やばいな、それ。
でも、悪気がなければ重いペナルティはないよね?
ルーシー:
いえ、税務署は“意図的かどうか”じゃなく、“仮装や隠蔽があったか”で判断します。
たとえば:
架空の在庫を計上した
評価損をあえて計上しなかった
期末に入荷してない商品を「入荷済み」として記帳した
こういうのがあると、**仮装経理→重加算税(最大40%)**のコンボが待ってます。
社長:
利益水増しして、税金も多めに払ってるのに、さらにペナルティ……?
ルーシー:
そう。最初は税務署もスルーしてても、後から発覚すると「脱税の温床」として認定される。
やましいつもりがなくても、“仕組みの甘さ”が一番危ないんです。
社長:
でもさ、会計で評価損にしてたら、税務でも当然損金になるでしょ?
ルーシー:
そう思うでしょ?でも現実は違う。
会計:売れなさそうなら評価損出せる(低価法)
税務:それが災害・陳腐化・法的整理など“特別な事由”じゃないと損金にならない
つまり、「会計上はOKだけど、税務ではダメ」ってケースが山ほどあるんです。
しかも、損金にするには客観的な証拠(写真・データ・見積)が必要。
社長:
あー……だんだん胃が痛くなってきた。
ウチ、在庫管理そんな厳密にやってないし、今までバレなかったのが逆に怖いな……
ルーシー:
今気づけたのはラッキーです。
次回は「どうすれば過大計上を防げるのか」、実務的な対策を徹底解説しますね。
社長:
うん、もうやるしかないな。
「見えない粉飾」で会社傾けたくないから、頼むぞルーシー!
社長:
ルーシー、話聞くたびに胃が締まる思いなんだけど……
正直ウチみたいな会社で、そんなに厳密に管理なんてできるのかな。
ルーシー:
大丈夫です、社長。完璧を目指さなくていいんです。
でも「見て見ぬふり」はやめましょう。今日お伝えするのは、“明日からでもできる対策”です。
ルーシー:
まずは、年1回だけじゃなく、定期的に棚卸しましょう。
毎月すべてじゃなくても、リスクの高い品目だけ「循環棚卸」する
棚卸表の作成だけでなく、差異の原因も必ず調べる
誰か1人に任せず、最低2名でのチェック体制
社長:
うちはいつも現場リーダーが1人で数えてたけど……
今思えば、「誰も突っ込まないから適当」ってのもあったかもな。
ルーシー:
現物確認は“リアルな経営の鏡”です。数字じゃなくて、現場で真実を見つけるんですよ。
ルーシー:
「古い在庫は評価を下げる」──これ、会計基準では当たり前なんですが、
実際の現場では「え?そんなことしたら利益減るじゃん」で終わってしまうことが多いです。
評価方法(先入先出法・平均法など)は一貫して適用
低価法の強制適用=“売れない在庫は値引く”
滞留・陳腐化在庫のリストアップと写真記録を習慣に
社長:
あー、アパレル業界とかだと死活問題だな、季節モノもあるし。
ルーシー:
はい、「評価損出す=損する」じゃなく、「事実を認めてリセットする」ことが企業にとっての利益です。
社長:
いや〜でも在庫システム、高くて手が出ないよ。
結局、紙とExcelでごまかしてるし。
ルーシー:
それ、よく聞きます。でも大丈夫。
クラウド型の低コストな在庫システムも増えてきてますし、
**本当に大事なのは「使うルール」と「使う人の意識」**です。
在庫データの入力は、リアルタイム or 定時更新に
発注・受入・棚卸を同じ人がやらないように分担
バーコードやQRの活用でミス削減
社長:
ルールと人ね……モノ買う前に仕組み作るってことか。
ルーシー:
どれだけ仕組みを整えても、最終的に重要なのは社長自身が現場を見て、数字を確認することです。
在庫回転率や粗利益率、月次の売上と在庫増減をざっくりチェック
資金繰りと連動して、「お金が残ってるか?」を意識する
在庫報告を“形式的な報告書”にしない。経営の会話のきっかけに使う
社長:
たしかに……最近、棚卸表は見ずに税理士さん任せになってたかも。
ルーシー:
もったいないです!在庫は会社の“今”を写す鏡。
その変化を読み取れる経営者こそ、変化に強い経営ができます。
社長:
で、ルーシーはこのあと何してくれるの?
ルーシー:
はい、ここからが本業です。
現場診断して、棚卸や在庫管理のどこが弱いかを見極め
仕組み改善の計画を一緒に立てて、導入を支援
経営者と一緒に、現場の管理者や担当者に伝え、巻き込む
社長:
おお、それって完全に“うちの一員”みたいな感じだな。
ルーシー:
そうなんです。中小企業診断士は、帳簿の外も見て、社長の「判断力」を高めるパートナーなんです。
ルーシー:
社長、在庫って、よく「寝てる現金」って言われます。
でも過大計上された在庫は、“嘘の利益”で経営を狂わせる寝たふりの爆弾です。
社長:
……爆弾、か。怖いけど、放置してたら本当に爆発しそうだな。
ルーシー:
だからこそ、今、手を打てるうちに始めてください。
完璧でなくていい。現場を見る、数字を意識する、評価を正す──
一歩踏み出すだけで、会社の未来は全然違ってきます。
社長:
よし、やってみよう。ルーシー、一緒に進めてくれ!
ルーシー:
もちろん、全力でお手伝いします!
社長の会社に“嘘の数字”が居座らないよう、今ここから一緒に整えていきましょう!
※この物語では金融庁や中小企業庁の情報を基にした、一般論での記載をしております。詳しい税務計算については顧問税理士の先生にお尋ねください。