社長:
ルーシー、ちょっと聞いてくれよ。ウチの営業部長が「目標は売上高前年比10%アップでいきます!」って元気よく言うんだが、根拠が…ないんだよな。
ルーシー:
おやおや。勢いだけで船を出すとは、ずいぶんと豪胆ですね。ところで社長、その「前年比10%アップ」って、利益出る水準なんでしょうか?
社長:
うっ……。うーん、感覚的には黒字になるとは思うけど、ちゃんと計算はしてない。
ルーシー:
じゃあ今日のお題、決まりですね。「損益分岐点分析」と「目標利益の設定」。数字に基づいた“確実に黒字になる売上”の考え方です。
社長:
うちの経理に聞いたら「損益分岐点?あー固定費÷限界利益率です」って言われたんだけど、ピンとこなくてな。
ルーシー:
はい、基本公式はこちらです:
損益分岐点売上高=固定費 ÷(1−変動費率)
要は「売上の何%が粗利として残るか」で、固定費を回収するために最低限必要な売上を逆算するんです。
社長:
たとえば、固定費が月300万円、原価率80%なら?
ルーシー:
変動費率が0.8だから、限界利益率は0.2。つまり損益分岐点売上高は、300万 ÷ 0.2 =1,500万円。これが月の「最低ライン」です。
社長:
なるほどな。でもさ、黒字を出したいなら、もっと売らなきゃダメなんだろ?
ルーシー:
そのとおり。目標利益を足した計算式がこちら:
目標利益達成売上高=(固定費+目標利益)÷(1−変動費率)
仮に「月に利益150万円欲しい」としますね。固定費300万円、限界利益率0.2だと……
社長:
(計算中)えーっと……(300万+150万)÷0.2だから、2,250万円!
ルーシー:
正解です。つまり「月商2,250万円で利益150万円」になります。これをさらに1日あたりに割れば、営業も現場も具体的な目標が見えてきますよ。
社長:
うちの工場長に「1日7.5万円分作って」と言っても、伝わらない気がするんだが。
ルーシー:
そのときは、個数に落とし込みましょう。たとえば製品単価が5,000円なら、「1日15個」「1時間あたり2個弱」となります。
社長:
おお、それなら工場のホワイトボードに書けそうだな。あと何個で損益分岐点…ってな。
ルーシー:
その工夫、まさに管理会計の実践です。従業員が「今日は赤字ゾーン」「明日は黒字に乗るぞ」と可視化されれば、モチベーションにも繋がります。
社長:
ふむふむ……損益分岐点や目標利益は、式で出せることはわかった。でもな、ウチみたいに「価格を少し下げたら売れるかも」って話もあるんだ。値引きの影響ってどう見ればいい?
ルーシー:
ナイスな疑問です、社長。それ、実はCVP分析で「限界利益率 × 販売数量」のシミュレーションをすれば一目瞭然なんです。
社長:
それ、グラフで見せてくれないか?
ルーシー:
もちろん。こちらをご覧ください。限界利益率が35%と20%のパターンで、それぞれ「定価」と「10%値引き」の場合を比較したものです。横軸が販売数量、縦軸が利益額。そして黒い横線が固定費です。
社長:
うおぉ、わかりやすいな。値引きすると、損益分岐点が一気に遠のくってのが目に見えてくる。
ルーシー:
そうなんです。特に限界利益率が低い商品で値引きをすると、販売数量が倍以上にならないと同じ利益が出ません。なので、「ちょっと安くして売る」は“致命傷”になることもあるんです。
社長:
今後、営業が「安くすれば売れます!」って言ったら、このグラフ見せてやるか。
ルーシー:
それこそ“数字で語る経営”。まさに中小企業診断士の推奨する姿勢です!
社長:
でもさ、たまに利益ほとんど出ない注文もあるだろ?断るべきなのか悩むんだよな。
ルーシー:
そこは損益分岐点の「考え方」が活きます。変動費を回収できていて、工場がヒマなら、固定費の一部でも回収する価値はあります。
社長:
ほう、赤字でも“全体の赤字を減らす”って意味ではアリってことか。
ルーシー:
ただし、限界利益がマイナスなら話は別。「受ければ受けるほど損」になる受注は、はっきり断った方がいいです。
社長:
あと、今度300万円の設備投資を検討しててな。これも損益分岐点で考えられるのか?
ルーシー:
もちろんです。月あたりの追加固定費が5万円増えるなら、その分を上回る限界利益が出る販売数量を確保できるかが判断基準になります。
社長:
つまり「月にあと250個売れる見込みがあるならGO」って話だな。
ルーシー:
その通り。経営は感覚じゃなく、数式で“納得”する時代です。
社長:
数字は苦手だったけど、損益分岐点の話って案外わかりやすいんだな。
ルーシー:
ええ。特に製造業のように固定費が重い業種では、損益分岐点分析は生存戦略とも言えます。
社長:
まずはうちの損益分岐点を出してみるか。今月から現場のホワイトボード、使わせてもらうよ。
ルーシー:
いいスタートです。利益目標は「根性」じゃなく「数式」で作る。社長の次の一手、楽しみにしていますよ。