ルーシー:社長、銀行から“債務者区分”って聞いたことあります?
社長:あー、あれでしょ?貸すか貸さないかの線引きってやつ。
ルーシー:うん、ざっくり言えばそう。ただ本当はもっと深刻なんです。
あれは企業に対して、銀行が「信用していい相手かどうか」を判定する“成績表”なんですよ。
社長:成績表って言うけど、ウチって赤点なのか?
ルーシー:今のままだと、「要注意先」の一歩手前ですね。「正常先」は業績も返済実績も問題なし、いわば“優等生”です。
一方「要注意先」は赤点ではないけれど、体調不良で保健室通い中、みたいな。
「要管理先」になると、すでに“登校停止”、つまり延滞やリスケの履歴がついている状態です。
社長:おいおい…。それって、いきなり貸してくれなくなるとか?
ルーシー:正確には、“新しいお金を借りるハードルがグッと上がる”って感じです。
しかも、もしリスケジュール(返済の猶予)とかしてたら、「要管理先」ってランクまで落ちます。
社長:ちょ、待て。それ、銀行のブラックリストか?
ルーシー:例えるなら、“イエローカード”です。レッドじゃないけど、次やらかしたらアウトみたいな。
社長:うっわ…。じゃあ正常先ってのは?
ルーシー:成績優秀。銀行からすれば「この会社なら安心して貸せる」って評価。
金利も優遇されるし、場合によっては保証協会の保証も不要。借りやすいし、返しやすい。
社長:くっ…。要管理先になったらどうなる?
ルーシー:ここからは“延命治療”です。追加融資はまず無理。信用保証協会も保証してくれません。
銀行は「もうこの先に貸すのは無理」と見て、“回収モード”に入ります。
社長:それ、もはや倒産寸前じゃないか…。
ルーシー:ちなみにその先には「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」って段階もあります。
「破綻懸念」は“このまま行ったら危ない”、
「実質破綻」は“もう手がつけられない”、
「破綻先」は“法的にアウト”、ってことです。
ちょっと簡単な表にしますね。
区分 | 状態のイメージ | 銀行の対応
ーーーーーー|ーーーーーーーーーーーー|ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
正常先 | 健全経営 | 積極的に融資。金利・保証も優遇。
要注意先 | 若干不安要素あり | 慎重姿勢。経営改善計画の提出を求められる。
要管理先 | リスケ・延滞あり | 新規融資は困難。既存債権の延命処理。
破綻懸念先 | 深刻な赤字・債務超過 | 回収モード。再生支援の選択肢が出てくる。
実質破綻先 | 事実上の倒産状態 | 貸倒処理前提。支援はほぼ困難。
破綻先 | 法的整理手続き中 | 債権回収の最終段階。信用保証協会が代位弁済。
ルーシー:しかも悪いことに、この情報は信用保証協会や他の金融機関にも共有されてます。信用保証協会は、銀行が提供する債務者区分情報をもとに審査します。要管理先以下になると、新規保証を断られる可能性が高くなるんです。
区分が悪化すると「この会社には保証出せません」となる。つまり、中小企業にとっての最後の生命線が切れるってことです。
社長:うっわ…。こうして見ると『要注意先』ってまだマシなほうだったのか
ルーシー:そうです。この表の中で「正常先」〜「要注意先」まではまだ回復ライン上。
ここをどう引き上げるかが勝負です。
社長:でもさ、銀行って表面の数字しか見てないんじゃないの?赤字とか借入残高とかさ。
ルーシー:それが意外と深く見てるんですよ。
単なる赤字でも、「原因は何か」「回復可能か」を精査します。
それに、見てるのは**PL(損益)じゃなくてCF(キャッシュフロー)**が重要です。
社長:キャッシュ…ってことは現金の動き?
ルーシー:はい。特に**営業キャッシュフロー(本業から生み出すお金)**を重視します。
これが赤字でもプラスなら「まだ回る」と判断されることもあります。
社長:なるほど…。それってどこまでの数字見るの?
ルーシー:たとえば以下のようなものですね:
売上高・営業利益・経常利益(3期分くらい)
債務超過の有無
自己資本比率(10%を下回ると注意)
利払能力(利息をきちんと払えてるか)
営業キャッシュフロー(マイナスが続くと要注意)
あと、返済の履歴や、「いつも約定どおりに払ってるか」なんかもチェックされます。
社長:じゃあ遅れたこととかもバレるんだな…。
ルーシー:当然です(笑)。
さらに、経営者の姿勢や資産背景も評価されます。
たとえば役員報酬を下げてでも返済を続けてるとか、個人保証があって資産もあるとか、そういう“粘り強さ”や“逃げない姿勢”がプラス材料になります。
社長:へえ…じゃあ、諦めたらそこで試合終了ってやつか。
ルーシー:そのとおりです。区分に応じて受けられる制度も変わります。
たとえば「要注意先」なら保証協会の経営改善サポート保証、「破綻懸念先」なら再生支援協議会や再生ADRの出番です。
具体的には
経営改善サポート保証は“要注意先”の企業が対象で、金融支援と計画策定支援がセットで受けられます
破綻懸念先であれば、中小企業再生支援協議会による専門家派遣や、弁護士主導の再生ADRも選択肢です
そして、私たち中小企業診断士の出番はそこです。
「今どこにいるか」だけでなく、「どうすれば上がれるか」を一緒に作る。
ちゃんと筋の通った改善計画を作って、銀行に見せる。これだけで評価が変わるケースは多いんです。
社長:でも、再建とか、計画とか、そんな大げさなもん…ウチみたいな規模でできるのか?
ルーシー:できます。
むしろウチくらいの規模だからこそ、早く動けば早く戻れる。
逆に放置すると、破綻懸念先 → 実質破綻先 → 破綻先と一直線。
その頃には銀行だけじゃなく、保証協会も、仕入先も、みんな離れていきます。
社長:こわ…。じゃあ今からでも「通知表」チェックして、計画立てるべきだな。
ルーシー:はい。次に銀行に行く前に、「診断士と債務者区分の棚卸し」をやりましょう。
戦略も見直して、“イエローカード返上”を目指しましょう!
■まとめ:
銀行の「債務者区分」は企業の信用格付け。知らずに落第すると資金調達が不可能になる
正常先・要注意先・要管理先・破綻懸念先…と進むと、融資条件は激変する
区分は数字だけでなく、社長の覚悟、改善計画の有無、資金の使い方まで評価対象
中小企業診断士は、銀行目線での“区分改善プラン”の策定ができるプロ
自社の区分を知ることで、取るべき行動・交渉の筋道が見えてくる