ルーシー:
 社長、今期の売上目標って、現状維持ですか?それとも攻めますか?
社長:
 ん?そりゃあ、攻めたい気持ちはあるけどさ……簡単じゃないよ。
 新しい商品作るにもリスクだし、新しい市場なんて、正直よくわからん。
ルーシー:
 それ、すごくいい悩み方です。
 まさに今日お話したいのが、“成長の選び方”なんですよ。
社長:
 ほう、怪しげな投資話じゃなきゃ聞くよ(笑)
ルーシー:
 安心してください、アンゾフ先生の話です。
社長:
 誰だよそれ(笑)
ルーシー:
 アンゾフの成長マトリクス──企業の「どこに向かって成長するか」を整理するためのフレームワークです。
 縦軸が「市場(既存/新規)」、横軸が「製品(既存/新規)」。
 この2軸を組み合わせて、成長戦略は4つに分類できます。
市場浸透(既存市場 × 既存製品)
市場開発(新市場 × 既存製品)
製品開発(既存市場 × 新製品)
多角化(新市場 × 新製品)
社長:
 ふーん。今ある商品をもっと売るのが“市場浸透”って感じか。
ルーシー:
 そうです。そして、今の製品を別の客層に売るのが“市場開発”。
 たとえば、法人向けだった商品を個人向けECで売る──みたいな例ですね。
ルーシー:
 地方の冷凍弁当メーカーが、法人向け給食配送だけじゃ頭打ちだってことで、自社サイトを立ち上げてEC展開を始めたんです。
 SNSでじわじわと口コミが広がって、今じゃ県外にもリピーターが。
 「商品は変えてない」のに、「売り方と相手」を変えたことで新たな柱を作ったんです。
社長:
 なるほどな。うちも似たようなこと、できるかもな……。
社長:
 でもなあ、新商品も昔やったんだよ。開発費かけて。
 でも全然売れなくて在庫の山だった……。
ルーシー:
 その失敗、実はよくあるパターンなんです。
 「ウチらがいいと思ったもの」が、実はお客さんにとって“どうでもよかった”という悲劇。
社長:
 ……ぐさっとくるな(笑)
ルーシー:
 製品開発って、技術的に“できる”と“欲しがられてる”は別問題なんです。
 市場調査なしで突っ込むと、高確率でハズレを引きます。
ルーシー:
 ちなみに、最後の「新製品×新市場」の多角化は、最もハイリスク。
 “未知×未知”ですから。
社長:
 何をやるにしても全部ゼロからって感じだな。
ルーシー:
 まさにその通り。
 ちなみに──あのユニクロが、かつて一部店舗で食品事業に挑戦していたの、ご存じですか?
ネットでは「ユニクロがトマト売ってた」なんて言われました。
社長:
 え?服屋がトマト?
ルーシー:
 はい。おにぎりやサンドイッチを売ってたんです。でも、数年で撤退。
 ブランド力も資金力もあり、カリスマ経営者柳井正会長率いるユニクロですら、“畑違い”の新市場には手を焼いたってことです。
社長:
 ……うちが安易に真似しちゃダメだな、それ。
ルーシー:
 じゃあ社長、ちょっとホワイトボード出しましょうか。
 まずは自社の商品やサービスを、このマトリクスに書いてみるんです。
社長:
 お、やってみるか。
 主力製品は法人向けで、ずっと同じ顧客だから──これは「市場浸透」だな。
 で、最近始めた個人向け通販は……「市場開発」ってことか?
ルーシー:
 完璧です。
 整理してみると、「今どこで戦っているか」「次にどこへ向かうか」がクリアになります。
社長:
 ……なるほどな。
 思ったより、うちの動きも整理できるもんだな。
 感覚でやってたことが“戦略”になるのはちょっと面白い。
ルーシー:
 戦略って、センスより構造なんです。
 道具を使えば、見えてくるものがあります。
社長:
 よし、じゃあうちはまず市場開発を本腰入れてやるか。
 ECももっと広げたいしな。
ルーシー:
 いい判断です。
 成長は、迷わずいける道から始めましょう──地図を持って、ね。