「意識の問題」を「人間特性の問題」に置き換える:管理・人間特性・能力・適性の順で原因を問う
権守 一城(中小企業診断士/kgsmec合同会社)
要旨
本稿は、製造業の品質管理で慣用される「管理の問題」「能力の問題」「意識の問題」という原因分類のうち、「意識の問題」という名称を問い直すものである。第一に、この分類に入れられる事象の多くは、忘れる、思い込む、慣れるといった人間特性に起因するにもかかわらず、名称が本人の心構えを指すために、対策が注意喚起と再教育に偏ることを指摘する。第二に、ヒューマンエラー研究の知見を参照し、人間特性によるエラーは経験を積んだ人でも犯すものであり、設計によって防ぐべきものであることを確認する。第三に、原因分析を「管理→人間特性→能力→適性」の順に進めることを提案し、その順序の根拠を示す。さらに、現場で用いられる人為的ミスの七つの分類との対応と、ホワイトカラー業務への適用例を示す。結論として、能力不足という診断は、仕組みと教育の機会を確かめる前に下されることが多く、しばしば早すぎることを述べる。
キーワード:ヒューマンエラー、人間特性、原因分析、ヒューマンファクター、業務改善
製造業の品質管理では、不具合や人為的ミスの原因を「管理の問題」「能力の問題」「意識の問題」に分ける整理が慣用されている。本稿が問題にするのは、このうち「意識の問題」という名称である。なお、この三分類は現場で慣用される整理として扱い、特定の文献に基づくものとはしない。
本稿の仮説は二つである。第一に、「意識の問題」という名称は、「人間特性の問題」に改めるべきである。第二に、原因分析は「管理→人間特性→能力→適性」の順に進めるべきである。
この順番は好みの問題ではない。順番を誤ると診断そのものが誤るというのが、本稿の主張である。
以下、第2章で「意識の問題」という名称の問題点を整理し、第3章でヒューマンエラー研究における人間特性の捉え方を確認する。第4章で原因分析の順序とその根拠を示し、第5章で実務上用いられる人為的ミスの分類との対応を、第6章でホワイトカラー業務への適用を検討する。第7章で本論の適用範囲と責任の所在を補足し、第8章で結論と本稿の限界を述べる。
現場で「意識の問題」と分類される事象の多くは、忘れた、思い込んだ、慣れていた、焦っていた、といったものである。中身は人間特性であるにもかかわらず、「意識」という名称が本人の心構えを指すため、対策は注意喚起、再教育、確認の徹底に向かう。いずれも「次は気をつける」ことを本人に求めるものであり、仕組みは何も変わらない。
名称の副作用はもう一つある。「意識が低かった」という説明は、結果からしか確かめられない。ミスが起きれば「低かった」ことになり、起きなければ問われない。名称が心構えを指す限り、分析はそこで止まり、なぜ忘れたのか、なぜ思い込んだのかという次の問いに進まない。
Reason(2000)は、エラーの捉え方を「人に着目するアプローチ」と「システムに着目するアプローチ」に分けた[1]。前者は、物忘れや不注意、心がけの弱さといった個人の内面に原因を求める。後者は、人が働く条件のほうに原因を求め、防護を組み込もうとする。Reasonが強調するのは、人間の性質は変えられないが、人間が働く条件は変えられるという点である。
Reasonは同じ論文で、人に着目するアプローチが根強い理由の一つとして、組織を問うより個人を責めるほうが感情的に満たされやすいことを挙げている[1]。「意識が低い」という診断が受け入れられやすいのは、それが正しいからではなく、納得しやすいからである可能性がある。
英国安全衛生庁(HSE)の指針HSG48も、従業員に「もっと注意するように」と伝えることを解決策とするのは誤りだとしている[2]。注意を払うよう期待すること自体は妥当でも、それに頼るだけではリスクを管理できないという立場である。
厚生労働省「職場のあんぜんサイト」は、ヒューマンエラーを「意図しない結果を生じる人間の行為」と説明している[3]。本稿もこの定義に従う。同サイトは、事故の原因には作業環境、設備、教育訓練、組織の取り組みなど人間を取りまく要因が含まれるとし、これをヒューマンファクターと呼んでいる。
人間特性とは、訓練や心がけでは消せない、人間に本来備わる性質を指す。本稿では次の六つを取り上げる。
忘れる
思い込む
慣れる
焦る
近道を選ぶ
疲れる
HSG48は、人的失敗をエラーと違反に分ける。エラーはさらに、スリップ(行為の誤り)、ラプス(失念)、ミステイク(判断の誤り)に分かれ、ミステイクはルールベースと知識ベースに分かれる[2]。Reason(2000)も、現場の不安全行為としてスリップ、ラプス、ミステイク、手順違反などを挙げている[1]。厚生労働省の同サイトも、ヒューマンエラーの代表的な分類の一つとしてSRKモデルを紹介している[3]。
この分類から、実務上重要な示唆が得られる。HSG48によれば、スリップとラプスは、意識的な注意をあまり要しない慣れた作業(スキルベース)で起き、経験を積み、訓練を受け、意欲の高い人でも犯す。そのため対策は、機器や作業の設計で起こりにくくし、起きても気づける仕組みを作ることだとされる[2]。Reason(2000)も、最も優れた人が最悪のミスを犯すことは珍しくないと指摘している[1]。
一方でHSG48は、経験不足や必要な情報が伝わっていないことによるエラーを別に取り上げている[2]。こちらは教育や情報提供で防ぐ領域であり、能力の問いと接している。
つまり、同じ「ミス」でも、設計で防ぐべきものと教育で防ぐべきものがある。「意識の問題」という箱は、この区別を消してしまう。
本稿は、原因分析を次の四つの問いとして順に進めることを提案する。
①管理:仕組みはあったか。ルール、権限、チェック体制、教える機会は整備されていたか。
②人間特性:その仕組みは、忘れ、思い込み、慣れ、焦り、近道を選び、疲れる人間が運用しても成立する設計だったか。
③能力:仕組みが整っていてもなお、必要な知識や技能が不足していたか。
④適性:教育と経験を重ねても改善しないか。
①と②は並列の箱ではなく、二段階の問いである。①は仕組みの有無を問い、②はその仕組みの品質を人間特性という物差しで問う。ルールが存在しても、月末の繁忙時に30項目を目視で確認させる設計であれば、②の問いには耐えられない。
この順番には四つの根拠がある(表1)。
表1 原因分析の順序の根拠
診断の精度:仕組みが整っていない環境では、能力は測定できない。手順が曖昧な業務でのミスは、能力不足と区別がつかない。
対策の波及範囲:仕組みの修正は担当者全員と後任者に効く。個人への対策は一人にしか効かない。
誤診時の損失:仕組みの変更はやり直せる。配置転換や評価への反映は、誤っていた場合に本人と組織の損失が大きい。
個人への帰責の抑制:個人を責めるほうが感情的に満たされやすい[1]。個人要因を最後に置く順番が、その偏りへの歯止めになる。
筆者作成
トヨタ生産方式も同じ方向を向いている。トヨタ自動車は公式サイトで、トヨタ生産方式を、働く人をより働きやすく楽にすることを前提にした生産方式と説明している。柱の一つである「自働化」は、異常が起きたら機械や作業者がラインを止め、不良を後工程に流さない考え方である。同サイトは、作業を改善して誰でもできる状態にすることを自働化の原点に置いている[4]。
なぜを繰り返して真因に迫る「なぜなぜ分析」や、人が間違えても不良にならないようにする「ポカヨケ」も、現場で広く使われている考え方である。いずれも、答えを人の注意力ではなく仕組みに求める。
能力と適性の順番にも理由がある。能力は教育で伸ばせるが、適性は配置でしか解決できない。可逆的な対策から先に試すのが合理的である。
人為的ミスの分析では、「決めごと(ルール)」を軸にした七つの分類が使われることがある。これを四つの問いに対応させると、表2のようになる。
表2 決めごとを軸にした七つの分類と四つの問いの対応
①決めごとがない ― 対応する問い:管理/対策の方向:ルールの作成、標準化
②決めごとに抜けがある ― 対応する問い:管理/対策の方向:ルール改訂、例外の整理
③守れないことがある ― 対応する問い:管理+人間特性/対策の方向:業務設計と工数の見直し
④教えてもらっていない ― 対応する問い:管理/対策の方向:教育と引継ぎの仕組み化
⑤守ったつもり ― 対応する問い:人間特性(思い込む)/対策の方向:判断基準の明確化、OK例とNG例
⑥決めごとを忘れた ― 対応する問い:人間特性(忘れる)/対策の方向:チェックリスト、警告、自動化
⑦いつも守らない ― 対応する問い:人間特性(慣れる、近道を選ぶ)→管理/対策の方向:守るほうが楽な設計、監督
筆者作成。七つの分類は現場の経験則に基づく整理であり、四つの問いとの対応づけは筆者の解釈による
この対応から三つのことが読み取れる。
第一に、七つのうち四つは管理の問いに属する。④の「教えてもらっていない」は能力不足に見えやすいが、問われているのは本人の能力ではなく、教える仕組みの有無である。
第二に、⑥と⑦は対策がまったく異なる。⑥はたまたま忘れたのであり、思い出させる仕組みで防ぐ。⑦は常習であり、まず「守らないほうが楽な設計になっていないか」を問う。HSG48は、規則を守らないことが職場の普通のやり方になった状態を「日常的違反」と呼び、その背景に時間と労力を省きたい欲求や、規則が実情に合わないという認識を挙げている。同指針は、職場の違反の多くは制約の中で仕事を終わらせたいという動機によるもので、故意の妨害はまれだとしている。対策としても、近道を誘う設計要因の改善や、不要な規則の見直しを挙げている[2]。
第三に、七つの分類には「能力」と「適性」の箱がそもそも存在しない。能力と適性は、七つをすべて消去した後に初めて残る問いである。現場で磨かれた分類が、すでに本稿の順番を体現していると言える。
この考え方は製造現場に限らない。ホワイトカラーの業務は工程が目に見えにくいぶん、「意識の問題」に流れやすい。表3は、どの会社でも起こりうる例を示したものである。
表3 ホワイトカラー業務における「意識」による対策と設計による対策
営業:前回の見積書を流用し、旧単価のまま提出した
「意識」と診断した場合の対策:提出前に必ず確認するよう注意
関係する人間特性:近道を選ぶ
設計上の対策:単価は価格マスタから自動参照し、手入力させない
営業:商談後の記録が数日遅れ、内容が抜ける
「意識」と診断した場合の対策:当日入力の徹底を指示
関係する人間特性:忘れる、疲れる
設計上の対策:外出先から1分で入力できる画面、入力項目の削減
事務:月末に請求書の発行が1件漏れた
「意識」と診断した場合の対策:ダブルチェックの徹底
関係する人間特性:焦る、忘れる
設計上の対策:受注データから請求予定を自動生成し、未発行を一覧表示
事務:宛先の入力補完で別の取引先に送信した
「意識」と診断した場合の対策:宛先確認の再教育
関係する人間特性:慣れる
設計上の対策:社外宛ての送信を一時保留し、宛先を再表示
企画:前年の前提を検証せずに計画を立てた
「意識」と診断した場合の対策:当事者意識を持つよう指導
関係する人間特性:思い込む
設計上の対策:前提条件を一覧に書き出し、第三者が検証する工程を置く
バックオフィス:三段階の承認を経た申請に誤りが残った
「意識」と診断した場合の対策:承認者の責任感を喚起
関係する人間特性:慣れる
設計上の対策:承認段階を減らし、各承認者が見る項目を特定する
筆者作成。いずれも説明のために構成した架空の例
「意識」と診断した場合の対策は、どれも「次は気をつける」の言い換えである。設計上の対策は、気をつけなくても間違いにくい状態を作ろうとしている。
企画の例には注意が要る。前提の誤りは知識ベースのミステイクであり、能力の問いと接している。ただし、前提を検証する工程が存在しない状態で、個人の分析力を問うことはできない。ここでも順番が効いてくる。
承認の例は、チェックを増やすほど安全になるという直感への反例である。筆者の実務上の観察では、確認者が増えるほど、各自が「他の誰かが見ている」と考える傾向が見られる。多重チェックもまた、人間特性を前提に設計しなければ機能しない。
「人間特性の問題」への置き換えは、誰も責任を負わないという主張ではない。三点を補足する。
第一に、設計課題として扱うのは、人間特性から予測可能な失敗に限られる。悪意のある違反や故意の隠蔽は、四つの問いの外にある。Reason(2000)は、失敗を報告する文化を支えるには「公正な文化(just culture)」が必要だとしている[1]。非難に値しない行為と非難に値する行為の線をどこに引くかについて、組織が共通の理解を持つことである。
第二に、責任は消えるのではなく移る。予測可能な失敗を放置した場合、問われるのは作業者の注意力ではなく、仕組みを設計し維持する立場にある管理職と経営者である。この転換は、管理する側にとってむしろ厳しい。
第三に、設計による対策には費用がかかる。すべてのミスに自動化で応じることはできない。発生頻度と影響の大きさから優先順位を決め、残るリスクは許容すると明示することも、管理の仕事である。
能力不足という診断が成り立つには、三つの条件が要る。仕組みが存在していたこと、その仕組みが人間特性に耐える設計であったこと、そして必要な教育の機会が与えられていたことである。
実務では、この三つを確かめる前に「あの人は能力が足りない」「意識が低い」という結論が出ていることが多い。その診断は誤っているとは限らない。しかし、確かめる前に下されているという意味で、早すぎる。
早すぎる診断の代償は小さくない。仕組みの欠陥は残り、後任者が同じミスを繰り返す。本人は改善の手段を与えられないまま評価を下げられる。組織は、ミスを報告すると損をするという学習をする。
人を責めるマネジメントから、人間特性を前提にしたマネジメントへの第一歩は、ミスが起きたときの最初の問いを変えることである。「誰が」ではなく「仕組みはあったか」。次に「その仕組みは人間に耐えるか」。能力と適性を問うのは、その後から実施することを推奨する。
本稿には次の限界がある。第一に、原因分析の順序は、ヒューマンエラー研究の知見と筆者の支援経験から導いた提案であり、その効果を実証したものではない。第二に、第5章で用いた七つの分類は現場の経験則に基づく整理であり、四つの問いとの対応づけも筆者の解釈である。第三に、第6章の例は説明のために構成した架空のものであり、示した対策が実際に効果を上げることを保証するものではない。第四に、本稿が参照したヒューマンエラー研究は、主に医療や産業安全の分野で蓄積されたものであり、ホワイトカラー業務への援用が妥当であるかは、今後の支援事例を通じた検証を要する。
本稿で参照した資料は、いずれもWebで全文を閲覧できる。最終閲覧日は2026年10月13日。
[1] Reason, J. (2000). Human error: models and management. BMJ, 320(7237), 768–770. doi:10.1136/bmj.320.7237.768
[2] Health and Safety Executive (1999). Reducing error and influencing behaviour (HSG48, 2nd ed.). ISBN 978-0-7176-2452-2.
[3] 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「ヒューマンエラー」安全衛生キーワード.
[4] トヨタ自動車株式会社「トヨタ生産方式」公式企業サイト.