中小企業にこそ必要なGTM(Go-to-Market)戦略と、受容を設計するという考え方
権守 一城(中小企業診断士/kgsmec合同会社、事業会社にてGTMを担当)
要旨
本稿は、GTM(Go-to-Market)を新製品の市場投入に限らず、値上げやサービス条件の変更といった「顧客にとっての悪い知らせ」を届ける場面にも適用すべき考え方として捉え直し、中小企業にこそそれが必要である理由を論じるものである。第一に、GTMを「顧客に取ってほしい行動から逆算して、認識、メッセージ、届け方を設計すること」と定義する。第二に、顧客の集中、兼務と属人、届け方の責任の不在、余力の小ささという中小企業の特性から、その必要性を仮説として示す。第三に、Netflixの2011年の料金改定の事例と、法改正への対応で配送条件を変更する事例企業(卸売業)を検討し、同じ内容の知らせでも届け方によって結果が分かれることを、フェア・プロセスの考え方を援用して説明する。これらを踏まえ、社長が決めるべき三つの事項と現場が担う四つの段階を見本とともに提示し、ロジックモデルに基づく指標の階層を示す。結論として、通知は手段であり、目的は売上の維持と利益の改善であるが、経営が設計できるのはその間にある顧客の認識と行動であることを述べる。
キーワード:GTM、中小企業、悪い知らせ、フェア・プロセス、ロジックモデル
GTM(Go-to-Market)という言葉は、一般に、新しい製品やサービスを市場に投入する際の計画を指して用いられる。誰に、何を、どの経路で売るのか。GTMを扱う記事や書籍の多くは、この「良い知らせ」をいかに広く、速く届けるかを論じている。
しかし、企業が顧客に届ける知らせは、良いものばかりではない。値上げ、取引条件の変更、サービスの縮小、担当者の交代。こうした知らせは、どの企業にも定期的に訪れる。そして支援の現場に立つと、これらが「通知業務」として処理され、文書を一枚送ることで完了したものと扱われている場面に出会うことが少なくない。結果として、重要な顧客が何も言わずに離れていく。
筆者は、中小企業診断士として活動する一方で、多数の事業者と働き手が利用するサービスを運営する事業会社においてGTMを担当している。そこでの仕事の多くは、新しい機能を広めることではなく、法令の改正や社内ルールの見直しによってサービスの仕様や手続きを変えざるを得ないときに、その変更を利用者にどう届け、受け入れてもらうかを設計することであった。変更の内容は自社では選べない。選べるのは届け方だけである。本稿は、この経験から得た考え方を、専任の部門を持たない中小企業でも使える形に整理する試みである。
本稿の問いは、顧客にとっての悪い知らせは、どのように届ければ受け入れてもらえるのか、そしてそのために経営者は何を決めなければならないのかである。以下、第2章でGTMを定義し、第3章で中小企業にこそGTMが必要である理由を仮説として示す。第4章で良い知らせのGTMを簡潔に整理したうえで、第5章で本稿の中心である悪い知らせのGTMを、実例と事例企業によって検討する。第6章では社長が決めることと現場がやることを見本とともに示し、第7章で管理すべき指標を整理する。第8章で結論と本稿の限界を述べる。
本稿ではGTMを次のように定義する。
GTMとは、顧客に取ってほしい行動から逆算して、顧客の認識、届けるメッセージ、届け方を設計することである。
この定義の要点は、出発点を「自社が何を伝えるか」ではなく「顧客にどう動いてもらいたいか」に置くことにある。伝える内容や手段は、その行動を引き出すために後から決まるものである。
この定義に立つと、GTMの対象は新製品の投入に限られない。顧客の行動に影響を与える知らせであれば、良いものにも悪いものにも同じ設計が必要になる。むしろ、設計の有無によって結果が大きく分かれるのは悪い知らせの方であると考えられる。良い知らせは、届け方が拙くても顧客が損をすることはない。悪い知らせは、届け方を誤れば顧客に「離れる理由」を与える。
なお、GTMを悪い知らせに適用するという捉え方は、一般的な用法を本稿が拡張したものである。この点は第8章で限界として改めて述べる。
GTMは、専任の部門を持つ大企業の営みと受け取られやすい。しかし本稿は、中小企業にこそGTMが必要であると考える。以下の四点は、筆者の支援経験に基づいて整理した仮説である。
第一に、顧客が少数に集中している。中小企業では、上位の数社が売上の大きな割合を占めることが珍しくない。一社の離反がそのまま業績に響くため、一つひとつの知らせの届け方の重みが大きい。
第二に、兼務と属人で成り立っている。届け方を設計する専任の部門はなく、営業担当者が自分の判断で伝えている。担当者によって伝え方が異なり、伝えたかどうかの確認も本人に委ねられやすい。
第三に、届け方に責任を持つ人が決まっていない。変更を決めるのは社長、案内文を作るのは事務、顧客と話すのは営業、というように役割は分かれている。しかし、どの顧客に、いつまでに、どこまで伝わったかを通して見届ける役割は、誰にも割り当てられていないことが多い。決めたことと実際に届いたことの間にずれが生じても、それが表に出にくい。
第四に、余力が小さい。失った顧客を取り戻すための資金や時間、人員には限りがある。届け方の失敗を後から挽回することは、大企業よりも難しい。
これらはいずれも、知らせの届け方を個人の裁量に任せず、あらかじめ設計しておくことの必要性を示している。
良い知らせのGTMについては、すでに多くの議論があるため、本稿では簡潔に整理するにとどめる。ここでは、第5章以降でも用いる事例企業A社(以下、A社)を設定する。A社は説明のために構成した企業であり、特定の企業を指すものではない。
A社は、従業員20名ほどの業務用食品の卸売業である。地域の飲食店や介護施設を顧客とし、配送は地元の運送会社に委託している。A社はこのたび、電話とメールによる受注に加えて、スマートフォンから発注できる仕組みを新たに用意した。
この知らせを「新サービス開始のお知らせ」として一斉に送るだけでは、利用は広がりにくい。定義に従えば、まず決めるべきは顧客に取ってほしい行動である。表1に記入例を示す。
表1 良い知らせの記入例(事例企業A社:スマートフォン発注の開始)
顧客に取ってほしい行動:発注頻度の高い顧客から順に、次回の発注を新しい仕組みで行ってもらう
顧客にどう思ってもらいたいか:「覚えることが増えた」ではなく、「閉店後でも発注できて楽になった」
届けるメッセージ:営業時間外でも発注できること、発注履歴から再注文できること、従来の電話とメールも引き続き使えること
筆者作成
良い知らせであっても、行動と認識を先に決めることで、誰から、どの順に、何を伝えるかが定まる。同じ枠組みを悪い知らせに適用するのが、次章の主題である。
顧客にとっての悪い知らせには、いくつかの類型がある(表2)。本稿ではこのうち、法改正などの外部要因によってサービスの内容を変えざるを得ない場合を中心に扱う。この類型は、企業の側に落ち度がなく、変更そのものは避けられないにもかかわらず、説明を欠くと顧客からは単なる「改悪」に見える、という特徴を持つ。
表2 顧客にとっての悪い知らせの類型
価格の変更(例:値上げ、手数料の新設)― 説明を欠いた場合の顧客の受け止め:「足元を見られた」
外部要因によるサービスの変更(例:法改正に伴う配送条件や手続きの変更)― 説明を欠いた場合の顧客の受け止め:「サービスを削られた」
自社都合によるサービスの変更(例:取扱商品の終了、対応時間の短縮)― 説明を欠いた場合の顧客の受け止め:「大事にされていない」
体制の変更(例:担当者の交代、窓口の統合)― 説明を欠いた場合の顧客の受け止め:「軽く扱われた」
筆者作成
届け方の失敗が結果を左右した実例として、Netflixの2011年の料金改定がある。同社は2011年7月、DVDの郵送サービスと動画配信サービスを別々の料金とすることを発表した。両方を利用する顧客にとって、月額は実質的に10ドルから16ドルへ、最大で約6割の引き上げとなった[1]。
顧客の反発は大きかった。同年9月、CEOのリード・ヘイスティングス氏はブログと顧客宛てのメールで謝罪した。注目すべきは謝罪の対象である。同氏が謝罪したのは値上げそのものではなく、その伝え方であった。同氏は、過去の成功から傲慢になり、変更の理由を十分に説明しなかったと認めたうえで、理由を説明しても値上げ自体は変わらなかったが、説明することが正しい対応であったと述べている[2]。
謝罪と同時に発表されたDVD部門の分社化(Qwikster)もさらなる反発を招き、同社は約1か月後にこれを撤回した。この間に同社は推定100万人の加入者を失ったと発表し、株価は7月以降で半分以下になった。一方で、値上げ自体は撤回されていない[1]。
この事例が示唆するのは、顧客の反応を決めたのは変更の内容だけではなく、その届け方であったという点である。経営者自身が、内容ではなく説明の不足を失敗として認めている。
同じ構図は、中小企業の日常にも起こり得る。第4章のA社を再び例にとる。
2024年4月から、自動車運転の業務にも時間外労働の上限規制が適用され、特別な事情がある場合でも時間外労働は年960時間が上限となった[3]。A社が配送を委託している運送会社はこれに対応するため、A社に配送条件の見直しを求めた。その結果、A社はこれまで毎日行っていた配送を週3回に減らし、当日の受注の締め切りも早めざるを得なくなった。
この変更は、A社にとっても不本意なものである。しかし顧客である飲食店から見れば、「毎日届いていたものが届かなくなる」という不便だけが残る。ここからの展開を、二通りに描く(表3)。
表3 GTMがない世界とある世界(事例企業A社の配送条件変更)
社長が決めたこと
GTMがない世界:「来月から配送日を変更する。顧客に通知せよ」
GTMがある世界:顧客に取ってほしい行動、持ってほしい認識、届けるメッセージ
届け方
GTMがない世界:全顧客に「配送日変更のお知らせ」をメールで一斉送信
GTMがある世界:影響の大きい顧客とは変更の6週間前に個別に面談し、それ以外の顧客にも電話で事情を伝えたうえで案内を送る
伝えた内容
GTMがない世界:新しい配送日と受注の締め切り時刻
GTMがある世界:法改正という理由、変更の内容と時期、まとめ発注の方法、欠品を防ぐための提案
顧客の受け止め
GTMがない世界:「一方的にサービスを削られた」
GTMがある世界:「事情は分かった。一緒に工夫してくれた」
顧客の行動
GTMがない世界:毎日配送を続ける他社に、一部の商品から切り替える
GTMがある世界:発注をまとめる形に切り替え、取引を継続する
A社が気づく時期
GTMがない世界:数か月後、売上の減少で初めて気づく
GTMがある世界:説明の場でのやり取りから、対応が必要な顧客を早い段階で把握する
筆者作成
二つの世界で、変更の内容は同じである。異なるのは、社長が最初に決めたことである。GTMがない世界の社長は「通知すること」を決めた。GTMがある世界の社長は「顧客にどう動いてもらい、どう受け止めてもらうか」を決めた。この違いが、届け方と伝える内容を変え、顧客の受け止めと行動を変えている。
届け方が結果を左右する理由は、キムとモボルニュが「フェア・プロセス」と呼んだ考え方によって説明できると考えられる。両氏は、従業員は、たとえ同意できない決定であっても、その決定に至る過程が公正であったと信じられれば、決定に従うと指摘する。フェア・プロセスは合意による意思決定を意味するものではない。決定の内容は変わらなくても、そこに至る過程の扱い方によって、人がそれを受け入れるかどうかが変わるという指摘である。両氏は公正な過程の要件として、関与(Engagement)、説明(Explanation)、期待の明確化(Expectation clarity)の三原則を挙げている[4]。
フェア・プロセスは、本来、組織内の意思決定と従業員を対象とした概念である。本稿はこれを、企業と顧客の関係に援用する。表4は、三原則を悪い知らせの届け方に当てはめたものである。
表4 フェア・プロセスの三原則と悪い知らせの届け方
関与
原義(従業員に対して):影響を受ける人の意見を求める
本稿での援用(顧客に対して):決定を伝える前後に、顧客の事情を聞く場を持つ
A社の例:訪問し、どの商品が週3回の配送では困るかを尋ねる
説明
原義(従業員に対して):決定の理由を理解できるようにする
本稿での援用(顧客に対して):変更の理由と、自社が検討したことを伝える
A社の例:法改正の内容と、運送会社と協議した経緯を伝える
期待の明確化
原義(従業員に対して):決定後の新しいルールを明示する
本稿での援用(顧客に対して):いつから何が変わり、顧客は何をすればよいかを示す
A社の例:新しい配送日、締め切り時刻、まとめ発注の方法を書面で渡す
出典:Kim & Mauborgne「Fair Process」の三原則をもとに筆者作成。顧客への当てはめは筆者による援用
この三原則に照らすと、Netflixの事例は「説明」を欠いた例として読むことができる。経営者自身が、理由を説明しなかったことを失敗として挙げ、説明しても値上げは変わらなかったが、説明することが正しい対応であったと述べている。決定の内容ではなく過程が問われたという点で、フェア・プロセスの指摘と整合する。
メール一通の通知が問題であるのは、メールという手段が悪いからではない。関与も説明もなく、期待の明確化だけが一方的に行われるからである。
第5章の検討から、悪い知らせのGTMにおける役割の分担が導かれる。社長が決めるべきは手段ではなく、顧客の側に起こしたい変化である。手段の設計と実行は現場が担う。
社長が決めるべきことは三つある。顧客に取ってほしい行動、顧客にどう思ってもらいたいか、そのために届けるメッセージである。表5に、A社の配送条件変更を例とした見本を示す。悪い例は、いずれも「自社が何をするか」を書いている。記入例は「顧客がどうなるか」を書いている。
表5 見本1:社長が決めること(事例企業A社の配送条件変更)
顧客に取ってほしい行動
悪い例:配送日の変更を通知する
記入例:変更後も取引を継続し、発注を週3回にまとめる形に切り替えてもらう。難しい顧客には、個別の相談に応じてもらう
顧客にどう思ってもらいたいか
悪い例:(決めていない)
記入例:「一方的にサービスを削られた」ではなく、「法律への対応であり、欠品しない方法を一緒に考えてくれた」
届けるメッセージ
悪い例:配送日変更のお知らせ
記入例:変更の理由が法改正であること、運送会社と協議を重ねたこと、変更の内容と開始時期、まとめ発注の方法と相談の窓口
筆者作成
この三点は、口頭で伝えるだけでなく、文書として社内に示すことが望ましい。図1は、その文書の一例である。
図1 見本1の文書例:社長が社内に示す対応方針(事例企業A社)
筆者作成
社長が三点を決めた後、現場は四つの段階で実行する。影響分析、シミュレーション、実行、モニタリングである(表6)。
表6 見本2:現場がやること(事例企業A社の配送条件変更)
影響分析
やること:顧客と商品の組み合わせごとに、変更の影響の大きさを把握する
記入例:日持ちしない商品を毎日発注している顧客を洗い出す。取引額と影響度の両方が大きい組み合わせを対応区分Aとする
シミュレーション
やること:顧客の反応を場合分けし、売上と粗利への影響を試算する
記入例:受け入れる場合、条件の相談になる場合、他社に切り替える場合を想定する。切り替えの影響が大きい顧客には、代替の提案を事前に用意する
実行
やること:届ける順序、手段、担当を決めて実行する
記入例:対応区分Aの顧客は、変更の6週間前に営業担当と営業責任者が面談し、説明資料と発注カレンダーを渡す。区分Bは4週間前に電話とメールで、区分Cは3週間前にメールと納品時の案内で伝える
モニタリング
やること:顧客の反応を記録し、懸念の兆候を共有する
記入例:説明時に理由が伝わったかを顧客ごとに記録する。変更の前後で発注額を比べ、2割以上減った顧客には営業責任者が改めて話を聞く
筆者作成
各段階は、表計算ソフトのシートとして管理できる。図2から図5に、四つの段階それぞれのシートの例を示す。
図2 見本2のシート例①:影響分析(事例企業A社)
筆者作成。数値は説明のための設定。同じ顧客でも商品群によって対応区分が異なる(2行目と3行目)
図3 見本2のシート例②:シミュレーション(事例企業A社、月間粗利・千円)
筆者作成。数値は説明のための設定
図4 見本2のシート例③:実行計画(事例企業A社)
筆者作成
図5 見本2のシート例④:モニタリング(事例企業A社、発注額は千円)
筆者作成。数値は説明のための設定。2割以上減った顧客(4行目)を色で示している
影響分析において重要なのは、単位を「顧客」ではなく「顧客と商品の組み合わせ」とすることである。取引額全体では小さな顧客であっても、特定の商品については変更の影響が極めて大きい、ということがあり得る。また、モニタリングは実行の後に始めるものではない。説明の場での顧客の反応そのものが、最初の、そして最も重要な観測点である。
悪い知らせのGTMがうまくいったかどうかは、何によって測ればよいのか。Output、Outcomeといった用語は、論者によって指す内容が異なることが多い。そこで本稿は、W.K.ケロッグ財団の「ロジックモデル策定ガイド」に準拠する[5]。
同ガイドの基本ロジックモデルは、Inputs(資源)、Activities(活動)、Outputs(産出)、Outcomes(成果)、Impact(影響)の五つの要素からなる。このうちOutputsは活動の直接の結果であり、活動に関するデータである。Outcomesは、それによって達成を期待する対象者の変化であり、短期と長期に分けて捉える。Outputsは自らの活動の量を、Outcomesは相手の変化を表すという区別が、この枠組みの要点である。
ただし、同ガイドは社会的なプログラムの評価を対象としており、Impactを7年から10年程度で現れる変化として位置づけている。本稿はこれを企業の施策に適用するため、Impactを自社の業績と読み替え、時間軸を短縮して用いる。
表7に、五つの要素を悪い知らせのGTMに当てはめた指標の例を示す。
表7 ロジックモデルに基づく指標の階層
Inputs
本稿での当てはめ:投入する資源と準備
指標の例(A社の場合):営業担当者への説明内容の教育、影響分析のための顧客リスト、反応を記録する仕組み
Activities
本稿での当てはめ:顧客に対する活動
指標の例(A社の場合):面談、電話での説明、案内の送付
Outputs
本稿での当てはめ:活動の直接の結果
指標の例(A社の場合):対応区分Aの顧客との面談完了率、説明を完了した顧客の数、反応の記録件数
Outcomes(短期)
本稿での当てはめ:顧客の認識の変化
指標の例(A社の場合):変更の理由を理解したと確認できた顧客の割合、説明後に追加の相談があった顧客の数
Outcomes(長期)
本稿での当てはめ:顧客の行動の変化
指標の例(A社の場合):まとめ発注に切り替えた顧客の割合、取引を継続している顧客の割合
Impact
本稿での当てはめ:自社の業績
指標の例(A社の場合):対象顧客の売上の維持率、粗利の変化
出典:W.K. Kellogg Foundation「Logic Model Development Guide」の基本ロジックモデルをもとに筆者作成。Impactは自社の業績と読み替えている
「通知を送った」ことは、この階層ではActivitiesにすぎない。「全顧客に送り終えた」としてもOutputsである。GTMがない世界では、管理はここで終わる。顧客が理由を理解したか、行動を変えたかというOutcomesが測られないため、Impactである売上の減少が現れて初めて問題に気づくことになる。
第6章で社長が決めるとした三点のうち、顧客にどう思ってもらいたいかは短期のOutcomesに、顧客に取ってほしい行動は長期のOutcomesに対応する。社長が決めることと、測るべき指標は、同じものの表と裏である。
本稿の結論は、次の三点にまとめられる。
第一に、通知は手段である。知らせを届けたこと自体は、成果ではない。ロジックモデルの上では、それは活動とその産出にとどまる。
第二に、目的は売上の維持と利益の改善である。悪い知らせを届ける場面であっても、企業の最終的な目的は変わらない。ただし、売上と利益は顧客の行動の結果として現れるものであり、経営が直接動かせるものではない。
第三に、経営が設計できるのは、その間にある顧客の認識と行動である。顧客にどう受け止めてもらい、どう動いてもらうか。これを先に決め、そこから逆算してメッセージと届け方を組み立てることが、本稿のいうGTMである。
売上は結果であり、設計できるのは顧客の受け止め方である。値上げも、条件の変更も、避けられないことは多い。しかし、それをどう届けるかは、常に企業の側で決めることができる。専任の部門を持たない中小企業においては、その最初の決定を担えるのは社長である。
本稿には次の限界がある。第一に、GTMを悪い知らせに適用するという捉え方は、一般的な用法を本稿が拡張したものであり、確立した定義ではない。第二に、フェア・プロセスは組織内の意思決定と従業員を対象とした概念であり、顧客との関係への援用が妥当であるかは実証されていない。第三に、第3章で挙げた中小企業の特性は筆者の支援経験に基づく仮説であり、調査データによる裏付けを伴わない。第四に、事例企業A社は説明のために構成したものであり、成功の描写は実際の結果を示すものではない。Netflixの事例は一社の経験であり、また大企業かつ消費者向けの事業であるため、中小企業の企業間取引にそのまま当てはまるとは限らない。本稿の枠組みは、これらの限界を前提とした仮説であり、今後、実際の支援事例を通じた検証が必要である。
NPR “Netflix Kills Qwikster; Price Hike Lives On” 2011年10月10日
KQED “Video: Netflix CEO Apologizes for Handling of Price Hike, Announces DVD-by-Mail Spinoff” 2011年9月19日(ヘイスティングス氏のブログ投稿の文面を収録)
厚生労働省 茨城労働局「運輸業の『働き方改革』について」
Kim, W. C., & Mauborgne, R. “Fair Process: Managing in the Knowledge Economy.” Harvard Business Review, 2003年1月号
W.K. Kellogg Foundation, “Logic Model Development Guide”